米国で、半世紀以上続いてきた大麻規制が大きな転換点を迎えている。
米国麻薬取締局、通称DEAが進めているマリファナの再分類をめぐる行政公聴会が2026年7月15日に終了した。
審理の対象となっているのは連邦規制物質法の下で最も厳しい「スケジュールI」に置かれてきたマリファナを「スケジュールIII」へ移行するという歴史的な規則改正案だ。
ただし、最初に明確にしておかなければならない。
今回の公聴会終了をもって、米国が大麻を全面的に合法化したわけではない。マリファナ全体のスケジュールIII移行が最終決定したわけでもない。
一方、米国政府はすでに2026年4月、州の医療用マリファナ制度に組み込まれた製品をスケジュールIIIへ移行する最終規則を発効させている。
つまり、米国の大麻政策は現在、
- 医療用マリファナに対する規制変更はすでに始まっている
- マリファナ全体を対象とした、より広い再分類手続きはまだ続いている
という、二段階の転換期にある。
この記事の重要ポイント
- DEAの行政公聴会は2026年7月15日に終了した
- 公聴会後の最終意見書の提出期限は2026年8月17日
- 州ライセンス下の医療用マリファナはすでにスケジュールIIIへ移行している
- 対象となる医療用事業者については税法280Eの適用除外が明記された
- 嗜好用マリファナは引き続き連邦法上の規制対象
- スケジュールIII移行は全面合法化や銀行取引の全面解禁を意味しない
※本記事は2026年7月20日時点で公表されている米国政府資料を基に作成しています。
2026年7月15日、DEAの行政公聴会が終了
DEAが公表した命令書によると、マリファナの再分類をめぐる本格的な審理は、2026年6月29日から7月15日まで行われた。
公聴会では政府側と再分類に異議を唱える団体・専門家・州政府関係者などが、それぞれ証拠や証言を提出した。政府側は審理の最初に主張と証人尋問を行い、その後、薬物検査団体、反対派団体、医師、州捜査機関などが順次、主張を展開した。
ただし、公聴会が終わったからといって、直ちに再分類が確定するわけではない。
行政法判事が7月16日に出した命令では関係当事者に対し、議事録の修正案と公聴会後の意見書を8月17日までに提出する機会が与えられている。
また、DEAが一般公開する正式な議事録についても、今後、誤記などを訂正したうえで公開される予定だ。
そのため、公聴会内で行われた個々の証言について、現時点で断定的に引用することには注意が必要である。
そもそも「スケジュールI」とは何か
米国では薬物や規制物質を危険性、医療的有用性、依存性などに応じて複数の区分に分類している。
マリファナは1970年に連邦規制物質法が制定されて以降、最も厳しいスケジュールIに置かれてきた。
スケジュールIは連邦法上、主に次のような特徴を持つ物質の区分である。
- 乱用の可能性が高い
- 米国内で現在認められている医療用途がない
- 医療監督下で安全に使用するための基準が認められていない
これに対してスケジュールIIIはスケジュールIやIIよりも乱用の可能性が低く、米国内で認められた医療用途があり、身体的依存の可能性が中程度または低い物質を対象とする。
つまり、スケジュールIIIへの移行は単に取り締まりを少し緩めるだけではない。
米国政府が「マリファナには現在認められる医療用途がある」と連邦制度上で認めることを意味する。
2023年、HHSがスケジュールIIIへの移行を勧告
現在の再分類プロセスの出発点となったのは2022年10月に当時のバイデン大統領が、マリファナの連邦法上の分類を見直すよう指示したことだった。
これを受け、米国保健福祉省、FDA、国立薬物乱用研究所などが、マリファナの医療利用、乱用の可能性、依存性、公衆衛生への影響を評価した。
その結果、HHSは2023年8月、DEAに対し、マリファナをスケジュールIIIへ移行するよう正式に勧告した。
FDAは規制物質法が定める8つの評価項目を検討したうえで、マリファナの危険性は存在するものの、ヘロイン、コカイン、オキシコドンなどの比較対象と比べ、重篤な有害事象や過剰摂取死亡のリスクが相対的に低いと評価している。
また、疼痛、特定の疾患に伴う食欲不振、化学療法による悪心・嘔吐などについて、医療利用を裏づける一定の科学的根拠があると判断した。
2024年5月には司法省がマリファナをスケジュールIからIIIへ移す規則案を正式に発表した。
ただし、司法省は当初から、スケジュールIIIへの移行後も、マリファナの製造、流通、販売、所持などがすべて自由になるわけではないと説明している。
トランプ政権も再分類を進める方針を表明
大統領の交代後も、再分類の流れは止まらなかった。
トランプ大統領は2025年12月、医療用マリファナとCBDの研究促進に関する大統領令を発表し、司法長官に対して、スケジュールIIIへの再分類手続きを法律に従って迅速に完了させるよう指示した。
大統領令では米国の多くの州で医療用マリファナ制度が運用され、数百万人の患者が利用している一方、連邦法上のスケジュールI指定が研究を妨げてきたことが指摘されている。
この点は極めて重要だ。
大麻の再分類は単純な民主党対共和党、リベラル対保守という対立だけでは説明できなくなっている。
医療研究、患者アクセス、州制度との整合性、税制、産業政策といった現実的な課題として、連邦政府全体が対応を迫られているのである。
医療用マリファナはすでにスケジュールIIIへ
今回のニュースを理解するうえで、見落としてはならない事実がある。
2026年4月28日、司法省とDEAは次のマリファナをスケジュールIIIへ移行する最終規則を発効させた。
- FDAが承認したマリファナ含有医薬品
- 州政府が発行する医療用マリファナライセンスの対象となるマリファナ
- 対象となるマリファナ抽出物や植物由来のデルタ9-THC
対象となる州ライセンス事業者についてはDEAへの登録手続きが設けられ、医療目的での製造、流通、調剤・販売を連邦制度の中へ取り込む仕組みが作られた。
一方、FDA承認製品でも州の医療用ライセンス対象でもないマリファナは、引き続きスケジュールIに残されている。
また、今回の登録制度は、嗜好用・非医療目的の製造や販売を認めるものではない。
したがって、「米国で大麻が合法化された」と表現するのは正確ではない。
正確には、医療用と非医療用を分け、医療用を連邦規制の中で管理する制度へ移行し始めたということになる。
最大の経済効果は税法280E
大麻関連産業にとって、最も直接的な変化は税制である。
米国内国歳入法280EはスケジュールIまたはIIに分類される規制物質を扱う事業者に対し、通常の事業経費の多くを税務上控除することを認めていない。
そのため、大麻事業者は州法上合法に営業していても、家賃、人件費、広告費、管理費などを一般企業と同じように控除できず、極めて重い税負担を抱えてきた。
2026年4月の最終規則では対象となる州の医療用マリファナライセンス事業者について、280Eによる控除制限の対象から外れることが明記された。
ただし、DEA自身も、個別の税務上の取り扱いについては専門家に確認するよう注意を促している。
この変更が定着すれば、医療用市場では事業者のキャッシュフロー、採用、設備投資、研究開発、価格競争力が大きく改善する可能性がある。
一方、非医療用・嗜好用事業者については、スケジュールIの状態が続く限り、同じ恩恵を受けられない可能性が高い。
今後は一つの大麻企業の中でも、医療用部門と嗜好用部門の売上や経費をどのように区分するのかという、新しい税務問題が生じることも考えられる。
研究は進みやすくなるが、自由化ではない
スケジュールI指定は大学、医療機関、製薬会社による研究に大きな負担を与えてきた。
研究者がマリファナを扱うためには、厳格な登録、保管、記録、調達などの要件を満たす必要があり、他の医薬品候補と比べて研究開始までのハードルが高かった。
スケジュールIIIへの移行はこうした研究環境を改善し、疼痛、睡眠、PTSD、神経疾患、がん治療に伴う症状などを対象とした臨床研究を進める契機になる可能性がある。
ただし、スケジュールIIIも規制物質である。
研究、製造、流通、処方などに登録や管理が必要であることに変わりはない。無承認の大麻製品が直ちに一般の処方薬と同じ扱いになるわけでもない。
今回の変化は「研究の自由化」というより、研究可能な医療対象として正式に扱うための入口が広がると表現する方が適切だ。
銀行取引が一斉に解禁されるわけではない
スケジュールIIIへの移行によって、金融機関が大麻関連事業者との取引を検討しやすくなる可能性はある。
しかし、再分類だけで銀行問題がすべて解決するわけではない。
FinCENの既存ガイダンスでは、金融機関が大麻関連事業者にサービスを提供する場合、州ライセンスの確認、取引内容の継続的な監視、疑わしい取引の報告など、厳格な顧客管理が求められている。
今回の規則でも、非医療用マリファナはスケジュールIに残されているため、嗜好用市場を含むすべての大麻企業が直ちに通常企業と同様の融資や決済サービスを受けられるとは限らない。
今後、財務省、FinCEN、各銀行監督当局が新しい規制に合わせて、どのような指針を示すかが重要になる。
今回の公聴会は何を変えたのか
今回の公聴会で最も大きな意味を持つのはマリファナの医療的価値や相対的危険性について、連邦政府自身が再評価を進めていることである。
長年、米国の連邦制度はマリファナを「現在認められている医療用途がない物質」として扱ってきた。
しかし、現在の政府資料では州の医療制度で数百万人が利用している現実や疼痛などに対する科学的根拠が、再分類を支える材料として正式に取り上げられている。
これは「大麻に危険性がない」と認定したことを意味しない。
依存、精神症状、運転への影響、若年層への影響、製品濃度、誤使用など、引き続き検討しなければならない問題は多い。
それでも、すべての大麻を一律に「医療価値のない違法薬物」として処理する従来の政策が科学的にも制度的にも維持しにくくなったことは明らかだ。
次に注目すべき日程
公聴会は終了したが、再分類手続きはまだ終わっていない。
現時点で注目すべき日程は2026年8月17日である。
この日までに、関係当事者は以下を提出できる。
- 公聴会議事録の修正案
- 事実認定や法的結論に関する意見
- 公聴会で行われなかった最終弁論に相当する書面
その後、議事録の訂正版が公開され、行政記録を基にした判断が進められる。
今後確認すべきポイントは、次のとおりだ。
- マリファナ全体のスケジュールIII移行が正式に確定するか
- どの範囲の事業者が280Eの適用除外を受けるか
- DEAの医療用事業者登録が実際にどのように運用されるか
- 銀行・決済・融資のガイダンスが更新されるか
- 非医療用市場との法的区分がどのように整理されるか
- 反対派による訴訟や差し止め請求が行われるか
全面合法化ではない。それでも歴史的転換である
今回の動きを「米国で大麻が合法化された」という一言で処理してしまうと、本質を見失う。
嗜好用マリファナは依然として連邦法上の厳しい規制対象である。
州法上合法な市場と連邦法の矛盾も完全には解消されていない。銀行、州をまたぐ輸送、広告、雇用、銃器保有、移民法など、周辺制度には多くの問題が残る。
それでも、今回の変化は小さくない。
米国政府はマリファナを単一の「危険な違法薬物」として扱う制度から、医療用と非医療用を区分し、科学的根拠と州の規制制度を利用して管理する方向へ動き始めた。
これは大麻の礼賛でも、無条件の自由化でもない。
禁止を前提とした政策から、医療・研究・税制・公衆衛生を含む管理政策への転換である。
2026年7月15日に終了したDEAの公聴会はその転換を決定づける最終地点ではない。
しかし、米国の大麻政策が以前の状態へ簡単には戻れない段階に入ったことを示す、極めて重要な節目である。
