インディカ/サティバは科学的にどこまで有効? カンナビス分類が「ケモタイプ」へ移る理由

インディカ/サティバは科学的に有効?カンナビス分類が「ケモタイプ」へ移る理由 — インディカとサティバの葉とTHC・CBD・テルペンのケモタイプ図

「インディカはリラックスして眠くなる」「サティバは頭が冴えて活動的になる」。

カンナビスについて調べたことがある人なら、一度はこの説明を目にしたことがあるのではないでしょうか。

現在も海外のディスペンサリーや品種データベースでは、「Indica」「Sativa」「Hybrid」という分類が広く使われています。

しかし近年、ゲノム解析や大規模な成分分析が進んだことで、この分類だけから実際の化学組成や体感を予測することには大きな限界があることが分かってきました。

科学の世界ではいま、植物の外見や伝統的な品種ラベルではなく、THC・CBDなどのカンナビノイドやテルペンの組成を見る「ケモタイプ」「ケモバー」という考え方が注目されています。

今回は、「インディカ/サティバ」という分類がどこから生まれ、なぜ科学的に見直されているのかを研究データから整理します。

インディカとサティバは、もともと「作用」の分類ではなかった

「サティバ」「インディカ」という言葉の歴史は18世紀まで遡ります。

1753年、スウェーデンの植物学者カール・フォン・リンネは、ヨーロッパで知られていたアサを Cannabis sativa として記載しました。

その後1785年、フランスの植物学者ジャン=バティスト・ラマルクは、インド由来の標本について形態などが異なるとして Cannabis indica を提唱しました。

つまり、本来は植物分類学上の名称です。

現在一般的に語られる「細い葉のサティバ」「幅広い葉のインディカ」というイメージも、ラマルクによる最初の記載と完全に一致するわけではありません。後世の植物学者や育種文化の中で、現在の俗称的なイメージが形成されていきました。

その後、嗜好用・医療用カンナビス市場では、

  • インディカ=鎮静系
  • サティバ=活動系

という説明が広まりました。

しかし、これは植物分類上の違いから直接導かれた薬理学的分類ではありません。

現代の品種は交配が進み、単純な二分が難しい

現代の商業品種を考えるうえで重要なのが、長年にわたる育種と交配です。

1970年代以降を中心に、世界各地の異なる系統を掛け合わせた品種が次々に作られました。

現在「サティバ」「インディカ」として販売されている植物の多くも、複数の系統を祖先に持つハイブリッドです。

では、商品に書かれている「70%サティバ」「80%インディカ」といった表示は、実際のDNAにも表れているのでしょうか。

この疑問に遺伝学から迫った代表的な研究があります。

2015年、Sawlerらは81の薬物型カンナビスと43のヘンプを対象に、14,031個のSNP(一塩基多型)を解析しました。

その結果、ヘンプと高THC型カンナビスの間にはゲノムレベルの違いが確認された一方、市場で申告されているサティバ/インディカの割合と遺伝構造との対応は限定的でした。

さらに同じ品種名を持つサンプルを比較すると、17組中6組、約35%では、同名のサンプルより別名のサンプルのほうが遺伝的に近いという結果も出ています。

つまり、「名前が同じだから遺伝的にも同じ」「サティバ○%だからDNAもその割合になっている」と単純には考えられません。

2021年のゲノム研究でもサティバとインディカは重なった

さらに重要なのが、2021年に『Nature Plants』に掲載されたWattsらの研究です。

研究チームは297サンプルについて40種類のカンナビノイド・テルペン成分を分析し、そのうち137サンプルでは116,296個のSNPを使ったゲノム解析も行いました。

その結果、「Sativa」と表示された植物と「Indica」と表示された植物は、ゲノム全体では明確に分離しませんでした。

一方で、市場ラベルと関連していたのは、一部のテルペン濃度と、それを制御するテルペン合成酵素遺伝子周辺の変異でした。

これは非常に興味深い結果です。

私たちが「サティバらしい」「インディカらしい」と認識してきた違いの一部には、植物全体の系統差というよりも、香りを形成する一部の化学成分が関係している可能性があるからです。

約9万件の商品を調べてもラベルと化学組成は一致しなかった

ゲノムだけではありません。

2022年に『PLOS ONE』で発表された研究では、米国6州から集められた89,923件の商業用カンナビス花の分析データが調べられました。

研究チームはTHC優位型サンプルについて、テルペン組成と「Indica / Hybrid / Sativa」のラベルがどれだけ一致するかを解析しました。

結果は明確でした。

PCA上では3種類のラベルが大きく混在し、サティバ・インディカという表示だけではテルペンプロファイルをきれいに分類できませんでした。

シルエット分析でも、商業ラベルによる分類では多くのサンプルが負の値を示しています。

一方、主要テルペンや化学データそのものを基準に分類すると、より明確なグループ分けが可能でした。

化学成分で見ると「3つの大きなグループ」が現れた

研究チームが「インディカ」「サティバ」というラベルを使わず、テルペンデータをk-means法で分類したところ、THC優位型カンナビスには大きく3つのクラスターが確認されました。

  • Cluster I:β-カリオフィレンとリモネンが比較的多いタイプ
  • Cluster II:ミルセンとピネン類が比較的多いタイプ
  • Cluster III:ターピノレンとミルセンが比較的多いタイプ

という分類です。

興味深いのは、Cluster IとCluster IIでは「Indica / Hybrid / Sativa」の割合に大きな偏りが確認されなかったことです。

一方、ターピノレンが特徴的なCluster IIIでは、サティバと表示された製品が多く、インディカ表示が少ないという統計的な偏りが確認されました。

つまり、サティバ/インディカのラベルが化学的特徴とまったく無関係というわけではありません。

ただし、その関係は限定的であり、商品全体を二分するほど明確ではないというのがより正確な理解です。

なお、この研究では全サンプルの96.5%がTHC優位型でした。さらにTHC優位型の87.4%がCluster IまたはIIに集中しており、米国商業市場の化学的多様性が特定タイプに偏っていることも示されています。

では「インディカっぽい」「サティバっぽい」体感は何なのか

ここで疑問が残ります。

実際に「重い感じがする」「頭が冴える」「不安が少ない」など、製品によって体感が違うと感じる人は少なくありません。

その差を考えるうえで重要なのが、THCやCBDだけではなく、テルペンやその他の成分です。

ミルセン、リモネン、ピネン、リナロール、β-カリオフィレンなど、カンナビスには多くのテルペンが含まれています。

ただし注意しなければならないのは、

  • 「ミルセンが多ければ必ず眠くなる」
  • 「リモネンが多ければ必ず気分が上がる」

というところまで科学的に確立しているわけではないことです。

動物実験や基礎研究でさまざまな薬理作用が報告されている一方、カンナビスに含まれる通常の濃度で人間の体感をどの程度変えるのかについては、まだ十分な臨床研究がありません。

THCとリモネンではヒト試験も行われている

テルペン研究の中でも注目されているのが、D-リモネンです。

2024年、ジョンズ・ホプキンス大学などの研究チームは、健康な成人20人を対象に、THCとD-リモネンを気化吸入させる二重盲検試験を実施しました。

30mgのTHCと15mgのD-リモネンを併用した条件では、THC単独と比べて「anxious/nervous」「paranoid」といった主観的評価が有意に低下しました。

一方、リモネンはTHCの血中動態を大きく変化させず、その他の多くのTHC作用にも大きな変化を与えませんでした。

特定のテルペンとTHCの組み合わせが人間の主観的作用を変える可能性を示した重要な研究です。

ただし、被験者数は20人であり、高用量リモネン条件では12人でした。

そのため、「テルペンプロファイルを見ればすべての体感を予測できる」という段階ではありません。

「アントラージュ効果」もまだ研究途中

カンナビノイドとテルペンなど複数の植物成分が互いに作用し、単独成分とは異なる効果を生むという考え方は「アントラージュ効果」と呼ばれています。

Ethan Russo博士が2011年の論文『Taming THC』で、植物性カンナビノイドとテルペンの相互作用について詳しく論じたことで広く知られるようになりました。

現在では、特定の成分間で相互作用を示唆する研究がある一方、「全草だから必ず相乗効果が起こる」という広い意味でのアントラージュ効果については、十分に実証されていません。

2024年のレビューでも、テルペンがカンナビノイドの作用を安定して増強するという臨床的証拠はまだ限定的であり、さらなる研究が必要だとされています。

これから重要になる「ケモタイプ」

そこで重要になるのが「ケモタイプ(Chemotype)」という考え方です。

植物の名前や見た目ではなく、実際にどの化学成分を持っているのかで分類します。

代表的には、

  • Type I:THC優位型
  • Type II:THC・CBDバランス型
  • Type III:CBD優位型

という分類があります。

このようなTHCとCBDの比率に基づく分類の基礎は、SmallとBecksteadが1973年に発表した研究まで遡ります。

その後、CBG優位型などを含むType IVや、カンナビノイドをほとんど生成しないType Vといった分類も研究・育種分野で使われるようになりました。

ただし、Type I〜IIIの境界に用いられる具体的な数値基準は研究によって異なる場合があり、法的な「ヘンプ/マリファナ」の区分とケモタイプ分類は同じものではありません。

THCとCBDを決める遺伝子についても理解が更新されている

従来、THC優位型とCBD優位型の違いは「B遺伝子座」の2つの対立遺伝子による比較的単純なモデルとして説明されることが多くありました。

しかし、ゲノム解析の進歩によって、このモデルも更新されています。

2026年に発表された研究では、THCAとCBDAの生成に関係する領域は、単純な1遺伝子・2対立遺伝子ではなく、密接に連鎖した複数の遺伝子を含む「スーパー遺伝子」のような構造を持つことが示されています。

カンナビスの分類そのものが、ゲノム研究の進歩によって現在も更新され続けているのです。

「ケモバー」という考え方

さらに一歩進んだ考え方が「ケモバー(Chemovar)」です。

THCとCBDの比率だけでなく、

  • 主要カンナビノイド
  • 主要テルペン
  • 微量カンナビノイド
  • その他の化学成分

まで含めて植物を特徴づけます。

例えば同じType IのTHC優位型であっても、

  • 「カリオフィレン・リモネン優位型」
  • 「ミルセン・ピネン優位型」
  • 「ターピノレン・ミルセン優位型」

では化学的には異なる植物材料です。

「インディカ」「サティバ」という二択だけを見るより、こうした情報のほうが実際の植物の違いを正確に表現できます。

ただし現在のところ、世界共通の単一ケモバー表記規格が完成しているわけではありません。

今後、分析技術と臨床研究がさらに進めば、主要カンナビノイドとテルペンを組み合わせた表示が、より一般的になる可能性があります。

インディカ/サティバは「間違い」ではなく、使い方に注意が必要

ここまでの研究を見ると、「インディカ/サティバ」という言葉自体を完全に無意味と考える必要はありません。

歴史的な植物分類、育種文化、香りや形態を表現する俗称としては現在も使われています。

問題なのは、

  • 「Indicaと書いてあるから必ず鎮静的」
  • 「Sativaなら必ず活動的」

と、ラベルだけから薬理作用まで予測してしまうことです。

現代の商業品種では交配が進み、ゲノム研究でもサティバ/インディカ表示と遺伝的構造は明確には対応していません。

約9万件の商業製品データでも、従来のラベルよりテルペンなどの化学組成を使った分類のほうが、実際の違いを正確に捉えられました。

今後のカンナビス研究では、

「これはインディカか、サティバか」

だけではなく、

  • 「どのカンナビノイドが、どの程度含まれているのか」
  • 「どのテルペンが優位なのか」
  • 「実際の分析結果はどうなっているのか」

を見ることが、より重要になっていくでしょう。

18世紀に始まった植物の名称から、21世紀のゲノム・分析化学による分類へ。

カンナビスの「分類」は、いま大きな転換点を迎えています。

主な参考文献

  • Sawler J, et al. “The Genetic Structure of Marijuana and Hemp.” PLOS ONE, 2015.
  • Watts S, et al. “Cannabis labelling is associated with genetic variation in terpene synthase genes.” Nature Plants, 2021.
  • Smith CJ, et al. “The phytochemical diversity of commercial Cannabis in the United States.” PLOS ONE, 2022.
  • Spindle TR, et al. “Vaporized D-limonene selectively mitigates the acute anxiogenic effects of Δ9-tetrahydrocannabinol in healthy adults who intermittently use cannabis.” Drug and Alcohol Dependence, 2024.
  • Russo EB. “Taming THC: potential cannabis synergy and phytocannabinoid-terpenoid entourage effects.” British Journal of Pharmacology, 2011.
  • André R, et al. “The Entourage Effect in Cannabis Medicinal Products: A Comprehensive Review.” Pharmaceuticals, 2024.
  • Allen K, et al. “The Structure of the Chemotype Determining Locus in Cannabis sativa.” Plant Direct, 2026.

※本記事はカンナビスに関する科学・研究情報の紹介を目的としたものであり、使用・所持・購入等を推奨するものではありません。各国・地域の法令に従ってください。

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