大麻ブランド「Cookies」はなぜ世界を制し、経営危機に陥ったのか

GSCの誕生、ヒップホップを利用したブランド戦略、そして急拡大を支えたライセンスモデルの光と影


青い「C」のロゴを見たことがある人は多いかもしれません。

「Cookies(クッキーズ)」は大麻を単なる農産物ではなく、ストリートファッションや音楽と結びついたライフスタイル商品へと変えた、世界的なカンナビスのブランドです。同社は、米国だけでなくカナダ、イスラエル、タイなど複数の国と地域へ進出。大麻企業として異例の知名度を獲得し、共同創業者のBernerは、大麻業界の経営者として初めてForbes誌の表紙を飾りました。

しかし、その華やかなイメージの裏側では、投資家や事業パートナーとの訴訟が相次ぎ、事業の存続にも影響しかねない深刻な問題が表面化しています。Cookiesは、なぜこれほど大きなブランドになれたのでしょうか。そして、世界展開を可能にした画期的な経営モデルは、なぜ同社を危機へ追い込むことになったのでしょうか。

Cookiesとは?

Cookiesはラッパーで起業家のBernerと栽培家・ブリーダーとして知られるJai、別名Jiggaによって2010年に設立されたブランドです。

Cookiesの特徴は主に次の3つを一つのブランドにまとめた点にあります。

  • 独自の大麻の品種とジェネティクス
  • ヒップホップを中心とする音楽文化
  • ストリートウェアと洗練されたパッケージのデザイン

現在では一般的になった「大麻をブランドとして売る」という発想をCookiesは比較的早い段階から実践していました。

当時の大麻市場では、高品質な製品であっても、簡素な袋に品種名だけを書いて納品されることが珍しくありませんでした。Bernerはディスペンサリーで働く中で、品質の高い製品には、それに見合う名前、ロゴ、容器、物語が必要だと考えます。

この発想がCookiesの原点となりました。

ブランドを決定づけた「GSC」の誕生

Cookiesの名を世界へ広げた最大の要因が「Girl Scout Cookies」と呼ばれた品種です。現在では、名称を短縮した「GSC」として広く知られています。

GSCはOG KushとF1 Durbanを基礎とする品種として登場し、強い香り、複雑な風味、特徴的な外観によって大きな注目を集めました。

その後、GSCの遺伝的な系統は多数の人気品種へ受け継がれていきます。

様々な品種がありますが、代表的に以下のような品種があります。

品種主な系統特徴
GSCOG Kush × F1 DurbanCookiesブランドの原点となった品種
Gary PaytonY Life × Snowmanガス、スパイス、土を思わせる香り
Cereal MilkY Life × Snowman甘いミルクやベリーを連想させる香り
GelatoSunset Sherbet × Thin Mint GSC甘くクリーミーで、派生品種も多い
Sunset SherbetGSC × Pink Pantiesベリーと柑橘系の複雑な香り

Gary PaytonとCereal Milkに関して、近い遺伝的背景を持ちながら、香りや風味には大きな違いがあります。これは同じ交配から生まれた個体の中から、目的に合った特徴を持つものを選別する「フェノハンティング」の重要性を示しています。

CookiesはTHCの数値だけではなく、香り、風味、見た目を含めた体験全体を品種開発の対象にしました。このジェネティクスへのこだわりが単なるマーケティング会社ではない、Cookiesの強さを支えてきたのです。

大麻を直接広告せず、文化の中にブランドを置く

Cookiesが成長した理由は製品の品質だけではありません。Bernerは自身のラッパーとしての活動をブランドの拡大に利用しました。

ミュージックビデオやライブ、著名アーティストとの交流の中でCookiesのロゴが入った衣服を着用。音楽とファッションを通して、ブランドをストリートカルチャーの中へ浸透させていきました。

大麻を直接広告することが難しい環境でも、アパレルであれば比較的広い範囲で展開できます。

また、米国では連邦法上の問題から、大麻そのものに関する商標保護が難しい時期が続いていました。

そこでCookiesは、衣料品ブランド「Cookies SF」を展開。アパレル分野で名前とロゴを保護しながら、大麻ブランドとしての認知度も高めていきました。

つまり、Cookiesにとってアパレルは単なる関連商品ではありません。

ブランドを法的・商業的に守り、広告規制を越えて消費者と接点を持つための重要な事業だったのです。

大麻に関して、日本での購入は不可ですが、下記にアパレルブランドの公式URLを貼っておくのでご興味がある方はぜひご確認ください。

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急拡大を可能にした「アセットライト」戦略

Cookiesは多くの大麻企業とは異なる方法で世界展開を進めました。一般的な大手大麻企業は、栽培施設、加工施設、物流、小売店などを自社で保有し、サプライチェーン全体を管理します。これに対してCookiesは、店舗や栽培施設を大量に保有するのではなく、各地域の事業者へ次の資産を提供しました。

  • Cookiesの名称とロゴ
  • 独自のジェネティクス
  • 店舗デザインやブランドイメージ
  • マーケティングとプロモーションの権利

各地域のパートナーが店舗や施設を運営し、Cookiesは売上に応じたロイヤリティやライセンス料を受け取ります。

このような形は、「アセットライト・ライセンスモデル」と呼ばれます。

比較項目Cookiesのライセンス型垂直統合型の大麻企業
初期投資比較的少ない土地・施設・設備に多額の資金が必要
展開速度既存事業者との契約で進出できる州ごとの許認可と施設整備が必要
収益ロイヤリティとライセンス料栽培から小売までの利益
品質管理パートナーに左右されやすい自社で管理しやすい
経営不振への対応パートナーの支払い能力に依存資産売却や自社判断で再編できる

米国では、大麻を州境を越えて自由に輸送することができません。そのため、新しい州へ進出するには、原則として現地で栽培・製造・販売体制を整える必要があります。

Cookiesの方式であれば、自社で各州に巨大な施設を建設しなくても、現地企業との契約によってブランドを展開できます。

この仕組みが、Cookiesの急速な世界進出を可能にしました。

成功を支えた仕組みが、最大の弱点になった

市場が成長している間、ライセンスモデルは非常に効率的です。

しかし、市場環境が悪化すると問題が生じます。新型コロナウイルス流行期の需要拡大が終わった後、米国の複数の市場では大麻の供給過剰と価格下落が進みました。

高額な税負担や違法市場との競争も重なり、多くの大麻事業者が経営難に陥ります。Cookiesの店舗を運営するパートナーの業績が悪化すれば、Cookiesへ支払われるロイヤリティも減少します。

また、Cookiesは多くの店舗や栽培施設を直接所有していないため、パートナーが支払いを行わなかった場合に、代わりに売却できる実物資産が限定されます。急成長を可能にした「資産を持たない強さ」が、「収益源を自分で管理できない弱さ」へ変わってしまったのです。

相次ぐ訴訟とパートナー関係の崩壊

2023年以降、Cookiesは投資家、ライセンシー、共同事業者との複数の法的紛争に直面しました。ここで重要なのは訴訟で示された内容の中には、当事者間で主張が対立しているものが含まれるという点です。

投資家による経営陣への訴訟

Cookiesの株式を保有する一部の投資家は、経営陣による自己取引や利益相反があったと主張しました。原告側は、特定の取引先の利用を強要したことや、経営陣側が個人的な利益を得ていたことなどを問題視しています。

一方、Bernerはこれらの主張を否定。自身の療養中に、投資家が会社の支配権を得ようとしたものだと反論しました。

大手ライセンシーTRPとの対立

TRP Co.はCookiesの全米展開を支えた主要なパートナーの一つです。

しかし、ロイヤリティの支払いや知的財産の使用をめぐって関係が悪化しました。Cookies側は仲裁で約2,270万ドルの損害賠償を認められたと報じられていますが、別の地域では店舗展開の独占権をめぐる訴訟も起きています。

一つの契約上の問題にとどまらず、複数の州や店舗へ紛争が広がっている点こそ、この事態をより複雑にしています。

840万ドルの支払いとロイヤリティ差し押さえ問題

Cookiesにとって特に大きな問題となったのが、サンフランシスコの店舗を運営していたCole Ashbury Groupとの紛争です。両者の契約には、一定の条件下でCookies側に店舗を買い取らせる権利が含まれていました。

市場環境の悪化後にこの権利が行使され、Cookies側は支払いを拒否しましたが、その後の判断で弁護士費用などを含む約840万ドルの支払いが命じられたと報じられています。さらに、判決の執行にあたり、第三者が運営するCookies店舗から得られるロイヤリティ収入を返済へ充てる措置が問題となりました。

Cookies側の弁護士はロイヤリティ収入を失えば、事業が支払い不能に陥る可能性があると主張しています。

「ブランドとライセンス料が最大の資産」というCookiesの構造が、最も厳しい形で試されているのです。

売上データにも表れた市場環境の変化

2026年6月時点でCookiesブランド全体の売上は前年同月比で約19.75%減少しています。製品カテゴリー別に見ると、動きは一様ではありません。

製品カテゴリー売上構成比前年同月比
フラワー64.41%−7.55%
ベイプペン23.32%−24.72%
プレロール8.54%−58.54%
コンセントレート2.84%+149.09%

フラワーは依然として主力ですが、ベイプペンやプレロールは大きく落ち込んでいます。

一方、コンセントレートは構成比こそ小さいものの、大幅な成長を記録しています。

これは、消費者がより高純度・高効能の製品へ移行している可能性や成熟市場で製品カテゴリーの再編が進んでいることを示しています。ブランドの知名度だけで売上を維持できる時代から、価格、品質、利便性を含む厳しい競争の時代へ移りつつあるのかもしれません。

ソーシャル・エクイティの理念と現実

Cookiesは、麻薬戦争によって大きな被害を受けてきたコミュニティを支援する活動にも取り組んできました。

代表的なものが「Cookies U」です。

栽培、抽出、小売、マーケティングなどを学ぶ機会を提供し、住居費や保育費を含む支援を行うプログラムとして展開されました。また、前科の抹消支援や、マイノリティ起業家への教育・メンターシップにも関与しています。

一方、米国各地のソーシャル・エクイティ制度には、深刻な課題があります。優先的に事業ライセンスを取得できても、開業に必要な資金や不動産を確保できず、外部投資家へ依存せざるを得ない事業者が少なくありません。

その結果、資金提供者が事実上の経営権や大部分の利益を握るケースも指摘されています。

Cookiesをめぐる一部の紛争もソーシャル・エクイティ関連店舗とのパートナーシップから発生しました。

社会的な理念と巨額の資金が必要な大麻ビジネスをどう両立させるかは、業界全体に残された問題です。

Cookiesは今後も生き残れるのか

Cookiesのブランド価値がすぐに失われるとは考えにくいでしょう。GSCを中心とするジェネティクス、青いロゴ、Bernerの知名度、音楽やストリート文化との結びつきは、短期間では再現できない資産です。

しかし、知名度と収益性は同じではありません。Cookiesが今後も事業を継続するためには、少なくとも次の課題に対応する必要があります。

  • 訴訟や仲裁を整理し、ロイヤリティ収入を確保する
  • ライセンシーとの契約と管理体制を見直す
  • 店舗や地域による品質のばらつきを抑える
  • 成長する製品カテゴリーへ対応する
  • 創業者、投資家、事業パートナー間の信頼を回復する

Cookiesは「大麻をブランド化する」という点では歴史的な成功を収めました。

一方、その成功を高速で世界へ拡大するために選んだ経営モデルが、現在は企業を追い詰める原因となっています。

まとめ

Cookiesは、大麻、音楽、ファッション、ジェネティクスを一つにまとめ、カンナビスを世界的なライフスタイルブランドへ押し上げました。その成功を支えたのはBernerのマーケティング能力、Jaiを中心とする品種開発、そして少ない資産で高速展開できるライセンス戦略です。

しかし、ライセンスモデルは、事業パートナーの経営状態や契約履行に大きく依存します。市場が拡大している間は効率的でも、価格下落や資金不足が広がれば、ロイヤリティの未払いと訴訟が連鎖する危険性があります。

Cookiesが直面している危機は、一企業だけの問題ではありません。合法化によって巨大な市場が生まれても、税制、規制、過剰供給、資金調達、社会的公平性といった制度が追いつかなければ、世界的なブランドでさえ不安定になり得ることを示しています。

Cookiesが再び成長軌道へ戻れるのか。それとも、世界的な知名度を持ちながら事業構造の問題によって縮小していくのか。同社の今後は、成熟期に入った世界の合法大麻産業を占う重要な事例となりそうです。


※本記事は、海外における大麻産業、企業経営および文化的動向について解説するものです。日本国内での大麻の使用、所持、栽培、譲渡または購入などを推奨するものではありません。各国・地域の法令を必ず確認し、遵守してください。

参考資料

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